SDA王滝 春の100km まさかのリベンジの巻

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◆2回目の王滝出場

セルフディスカバリーアドベンチャー王滝100に参加してきました。前回が2014年の春なので、3年ぶり2回目の挑戦です。

シクロクロス大好きなはずの私がシクロクロスを早々に切り上げ、王滝を目標にしてトレーニングを重ねてきました。

1回目の完走後、2度と出場しないと思っていたあのキツイキツイ王滝です。記憶というのは薄らいでいくものではありますが、すっかり忘れるまで数年かかりました。

◆トレーニング

私のモチベーションの維持能力は3ヶ月くらいが限度でピークも3ヶ月以後下降していく傾向にあります。

時間のない平日のトレーニングとして取り入れていたランニングも心肺能力の向上と維持に効いている実感がありました。日々の安静時心拍数を可視化することで効果がわかっていました。

自転車ばかりでは飽きてしまう。あれもしたいこれもしたい、土日もたまには惰眠を貪りたいという私にとっては、休日に自転車ばかりでは時間が足りないこともあり、土曜日は自転車、日曜日はランニングというトレーニングサイクルもモチベーション維持にうまく機能します。

前回の王滝出場前のトレーニングメニューは荒川の平地を高強度で100km走ることを繰り返すのみでしたが、今年のトレーニングはトレイルを楽しんだり、王滝を想定したガレた山を走ったりと、それらしいものです。

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それらのトレーニングで負荷をかけてきても腰に一切の痛みもなく、疲労も翌日に引きずらないくらいでしたからコンディションは悪くはなかったかと思われます。

◆機材

機材面では買ったままの自転車についていたグリップが細く、手のひらが下がり気味でそれが負担になっていたことから、前回出場後すぐにグリップをエルゴンに換装しました。

泥の堆積でワイヤーの引きが重くなる廉価版スラムのフロントディレーラもシマノのXTに変更しました。タイヤはIRCのチューブドタイヤで、チューブレス化は見送っています。

機材に劇的な変化をつけず、セルフディスカバリーすること、自分の身体に問うことを強く意識した選択です。肥えきった身体で出場した前回のタイムが6時間55分。今回は6時間切りを目標とします。

◆ペコと走った代償

しかし4月下旬、愛犬とともに出場したドッグマラソン中型犬3kmの部で、初めの1km3分半という愛犬ペコの速すぎる引き回しに遭った後から身体の変調を感じてきます。

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左足裏、中指と薬指の間が痛いのです。痛みをかばうと足首も痛みはじめ、歩くことも困難になってしまいました。

ランニングの後の持病として認識はしていました。多少の痛みは安静にすることで回復してはいたのでなんとなく治療をあきらめていたのですが、いざ検索してみるとモートン神経腫という矯正次第で治りそうな病気と判明します。

痛みに焦り、矯正用のインソールをすぐに買い、使いはじめると歪みきった身体への強い矯正で、太もも、股関節、肩周り、腰と全身が悲鳴をあげます。歪んでいる身体もベストではないにしろ歪むことで均衡を保っていると言われます。確かにくせのついた身体の矯正に痛みが伴うのは当然でした。

これが王滝本番2週間前のことです。インソールの矯正もいったんはあきらめ、ひたすら安静にするしかありませんでした。

◆いざ、王滝へ

レース前日。自転車に乗れる程度の痛みに落ち着き、王滝へ向かうことができました。車の屋根に自転車を載せ、レースのための道具と布団一式を車内に詰め込み、他者が入り込む隙間はありません。自分のための自分だけの愛車、ミーのカーとなりました。数日前に車内泊の練習をしていて狭い車で快適に過ごす技も身につけました。

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◆オヤジたちの雑談

往路、同じく王滝へ向かう2台の車と合流し昼食のパーキングエリアでとりとめもない雑談。王滝の駐車場で自転車のメンテナンスをしながら雑談。夕飯の中華料理店で雑談。ことあるごとに「8時には床につくぞ!」と声高に叫ばなければ、この雑談は止まらず一睡もしないままスタートすることになりかねない楽しい前日でした。

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◆レース当日

星も輝く真夜中にごそごそ起きだし、準備をします。スタートラインの位置を確保したら、みんなでカップラーメンをすすります。ほどよく冷たく、澄んだ王滝の空気がカップラーメンの湯気をたたせます。

そして朝の雑談はうんこの話題。参加者の数に対して少なすぎるスタート地点の仮設トイレ。スタート前に不安要素を排除するために、いかにしてトイレを済ませるか。

これから100kmをほぼノンストップで走らなくてはならない私たちにとって非常にシリアスな問題なわけです。夜に食べた台湾ラーメンの辛味が下腹部をヒリヒリさせています。

違和感のある腹をさすり、なぜ前日にそれを食ったかと自問するしかありませんでした。台湾ラーメンの唐辛子をよけていたというカネコ氏のセコさもここで発覚します。

さて、なんやかんやと若干のトレーニング不足はあるものの、王滝のスタートラインに立てました。そのよろこびはすぐに緊張に変わります。タイヤの空気圧がいつもより低く、スタートを待つ間も気になって仕方がありません。「空気圧ひくすぎるかなー」と気にする私に「だいじょぶしょ!」と言うカネコ氏の言葉は他人事でしかないのです。

リアルスタート前のパレード走行で前へ前へ出ていきます。

◆隔絶された世界

そして山に入りリアルスタート。まわりのハイペースに完全に飲みこまれていきます。心拍数は最大心拍数の94%を超えているにもかかわらず、次々と抜き去られてしまいます。一見すると、ただのおじさんでも速い人たちというのはたくさんいて、前目で展開する人たちのスピードに気持ちがへし折られていきます。

有力選手が自転車から降りて尻をつきうなだれていました。メカトラで絶望しているようにみえました。有力選手といえども、レース中のサポートがないのが王滝です。私たちはみな平等に、外界から断絶された非日常の世界に入り込んだのです。

ひとつめの大きな山を越え下りへ。スタート前の不安が現実になりました。後輪がパンクしてしまいます。スピードもラインどりにも無茶はなく、あっさりパンクしてしまいました。よれる後輪に後悔しかありませんでした。まったくもって「だいじょぶしょ!」ではなかったのです。

◆セッティングミスと失意

少しの停車でも数えきれない人たちが通過します。修理キットを準備する間にも何十番も順位を落としていきます。通過するその数にレースを投げ出したくなります。カネコ氏がヒャッヒャッヒャッと笑いながら私をみつけ、写真を撮って去っていきました。「だいじょぶしょ!」うるさいわ、あの野郎。

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手動の小型ポンプで空気をいれます。ポンプの音がスコスコと虚しく鳴いています。投げ出したくなっても、この山の深くに入ってはすぐにリタイアすらもできないわけです。どうせ走るなら復帰に時間をかけてはいけません。

パンクしていない前輪にも少し空気をいれ、2度目のパンクを回避します。パンクしたチューブを無造作にバックパックに押し込んでリスタートまで約10分程度がかかったでしょうか。はぁ順位はいくつ落としたでしょう。あの人もあの人もあの人も通り過ぎていきました。

復帰して少し進むとカネコ氏がパンクで止まっています。そのまま通過します。それからゴール後までカネコ氏に会うことはありませんでした。パンクを笑うものはパンクに泣いたのです。

◆痛む腰

序盤のオーバーペースが祟ったのか、終始腰が痛み続け、ペダルを強く踏むことができません。路面の凹みにもサドルに乗ったまま行きたくなるくらいの消耗で、痛む腰に凹みの衝撃があり、腰はさらに痛んできます。

フルサスの自転車ならやり過ごせるのだろうかと思いながらただ独り進みます。

40分ごとに補給をうながすアラームを鳴らす腕につけたガーミンに従い甘いジェルを口に含みます。思考停止に近づいてもアラームがあれば補給を無駄にとることもありません。

◆高低図はメンタルを支える

高低図をハンドルに貼り付けたことで、いつ山が終わるか、いつ山が始まるのか、あといくつの山が待っているのかを把握しながら走れることができました。これが気持ちを楽にしてくれます。距離だけみて走った前回は終わりのない山の連続に「まだ終わらないのかよ」と、声を出した独り言、泣き言を連発していましたから。

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とにかく、この高低図とガーミンの示す走行距離を見比べ、山ののぼりを淡々とこなし、下りはほとんど抜かれることなくエキサイティングに攻めました。

◆初めての体験

この日の王滝は暑く、前回よりも消耗しました。ボトル2本の給水ではまったく足りずチェックポイントの給水を待たずに、岩肌から吹き出す天然水をボトルにくみ取り、のどの渇きを癒します。

天然水を口にするのは人生初でした。東京の水道水にない味わいに抵抗がありました。都会に生きている実感とも言えます。

◆目標の下方修正

抜かれることはあっても抜くことは少なくだいぶ順位を下げました。もう300番手くらいでしょうか。6時間切りなんて夢のまた夢。秋の王滝120km出場権利を得る7時間切りに目標を下方修整していました。7時間切らぬは男の恥とそれくらいの気持ちです。

◆山を越えてもゴールは遠い

最後の山を越え、残り10数キロはひたすら下りです。手元のガーミンのタイムでは7時間まで余裕がありませんでした。安全マージンをとりつつも、かつてない狂人じみたスピードで下ります。それでもなかなかゴールはみえません。残り1キロの表示を通過したところで、ガーミンのタイムは7時間を過ぎ、絶望します。

ゴールゲートに着くと公式タイムは6時間59分を表示していました。ガーミンのスタートボタンをはやめに押していたのです。

◆またも絶望

完走したものも途中棄権したものも等しく、お金さえ払えば浴びることができる有料シャワーで泥を流します。

頭で石鹸を泡立てると身体に激痛が走ります。走っている間は気にもならなかったというのに、サドルで圧迫されていた黄門様がひどく腫れています。昨夜の台湾ラーメンの唐辛子が残る胃を思い、またしても絶望します。

はー、この身体で6時間59分ですか。前回出場が6時間55分でしたから、何も成長がなかったのでしょうか。

しかし走行データを比較すると、区間の新記録を連発していました。パンク修理の10分は実は1時間だったのかもしれません。絶望に囚われた私の気持ちが走行データにスッと救われ、達成感を得た瞬間でした。

王滝のゴール後の達成感は唯一無二、他のものと代え難いものです(と今回は無難に〆ておきます)。

長野の山々を背にし、帰りに立ち寄ったコンビニ前にて旅の仲間と記念撮影。3回目の絶望はあるのか!

リザルト 6時間59分19秒。100kmの部168位(800人くらいの出場)

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